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「衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団」
死因究明制度改革に関する提言要旨(案)
 
平成20年7月31日
 衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団
下 村 博 文
水 野 賢 一
細 川 律 夫
倉 田 雅 年
早 川 忠 孝
 

 この度、衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団は、その調査の中で、7月22日にスウェーデンのリンショーピン市にある法医学庁及び科学捜査研究所を訪問し、同国の死因究明制度についての視察を行い、北欧とわが国の現状とを比較する機会を得た。
 わが国の死因究明に関する問題は、法務委員会でも多くの委員から指摘され、犯罪や事故の見逃しが、わが国の死因究明制度の不備に起因するのではないか、との議論が交わされた。また、議員提出法案が法務委員会に係属していることも踏まえ、法務委員会理事懇談会で勉強会を行い、さらに全委員を対象に、委員長主催の勉強会を3度開催して法医学者などから意見を聴取しているところである。

第1 委員長主催死因究明制度の勉強会の概要

第1回(平成20年5月14日)
 千葉大学大学院医学研究室医学教室教授の岩瀬博太郎氏を講師として招き、講師からは、解剖がなぜ必要とされるのか、我が国における法医解剖の現状及び諸外国との比較、死因究明制度の不備が国民に与える影響といったことについてお話いただいた。
 講師の説明及びその後の質疑応答から浮かび上がった問題点としては、おおよそ以下のものが挙げられる。

1 死因究明に関する責任官庁が曖昧
 現行制度では、警察が簡易な初動捜査のみで非犯罪死体と認定した死体については、責任官庁が警察庁、法務省、厚労省なのかがはっきりしない。諸外国では捜査機関が責任官庁とされているところが多い。
 現在の代行検視など責任者不在の制度は問題がある。

2 人的・物的なインフラの脆弱性
 例えば、法医学専門医の数を見ても、人口600万人の千葉県では2人(ドイツ・ハンブルグでは170万人:17人)しかおらず、法医解剖に関する人的基盤の脆弱性は際立っている。 国立大学法人化に伴い、人員・予算が削減されており、法医学を希望する学生はいるが、法医学教室にポストがないため、勧誘できない。 病理医の協力もなかなか得られないのが現状である。

3 刑事司法の責任
 犯罪だけを発見したいという都合を優先するあまり、死因究明制度を未熟なまま放置してきたと見受けられる。
 犯罪捜査のみを偏重した法医学解剖の運営により、解剖情報が犯罪捜査以外に利用されていない。

4 死因究明制度の抜本的な見直しの必要性
 死因調査にCTの導入等を積極的に行ったとしても、CTの診断率は3割であり、残りの7割は「死因がわからない」ということが「わかる」だけである。
 犯罪捜査目的に限定せず、公共の安全一般を維持するために運営する制度設計が必要である。法医学研究所のような死因究明のための機関を作り、人員、予算をかけて、かつ、解剖や検査を業績として評価しなければ、解剖制度や司法制度は崩壊してしまいかねない。

第2回(平成20年5月29日)
 東京都監察医務院長の福永龍繁氏を講師として招き、講師からは、監察医制度の現状、わが国の死因統計、死因究明制度の在り方といったことについてお話いただいた。  
 講師の説明及びその後の質疑応答から浮かび上がった問題点としては、おおよそ以下のものが挙げられる。

1 監察医制度をめぐる問題点
 監察医制度は、衛生行政、公衆衛生の向上、死者及び家族の諸 権利の適切な向上、安寧秩序の維持、医学研究などについて、行 政の中立的な医療機関として貢献している。 当初、監察医制度は7都市で施行されていたが、最終的に全国に拡大することを期待されていたにもかかわらず、現在は当初より縮小されてしまっている(5都市)。 死体解剖保存法第8条が誤解され、政令で監察医制度を置く地域と指定された5都市のみで死因不明死体の解剖をすれば良いものと誤解されている。 費用拠出がなされているのは東京、大阪、神戸のみであり、横浜は原則身内負担となっていることや検案件数など、監察医制度のある地域間でも格差が生じている。

2 死因統計への影響
 適切な死因調査が行われていないことは、死因統計にも影響を与えている。監察医制度のある県とない県の間で、死因の内訳に歴然たる違いがある。監察医制度のない県では、「心不全」が死因の多くを占め、これでは何のための検案か全く不明である。実態を反映した統計となっていないため、世界各国に誤解を与えている(例:日本食を食べれば心筋梗塞を減らせる)。先進国で死因統計が信用されていないのは我が国だけである。

3 死因究明制度のための財源
 死因究明制度の財源を、税金で全てまかなうのではなく、保険会社等の「受益者」が一部負担する枠組みを構築することも考えられるのではないか。

4 今後の方向性
 最終的には、各都道府県ごとに一つずつ独立行政機関としての死因調査のセンターを持つということが考えられる。 そのような体制ができあがるまでは、大学(法医学教室)に併設する方式で県などの地方公共団体と国が費用を拠出する方式が考えられる。

第3回(平成20年6月13日)
 福岡大学医学部総合医学研究センター(法医中毒学)の影浦光義教授を講師として招き、講師からは、法医中毒学の概要、我が国の法医中毒学の望ましい姿を実現するための方策といったことについてお話いただいた。
 講師の説明及びその後の質疑応答から浮かび上がった問題点としては、おおよそ以下のものが挙げられる。

1 法医中毒学の現状
 現在、法医中毒学は危機的状況にある。大学では、刑事事件のための薬毒物検査の重要性が認識されておらず、人員・機器の拡充ができていない。
 現在、単独で法医中毒学を担える学者は10人程度であり、そのほとんどが50歳代である。法医学教室のポストがないので人材養成もできない。
 また、法医学教室では、法医中毒学実務に不可欠の分析用機器の保守・維持のための人的・財政的保障は確立されておらず、薬毒物検査などに対する相当の代価も支払われていない。

2 法医中毒学者の不足がもたらす影響
 「犯罪の見逃し」が生じている。現在表に出てきているものは一例に過ぎないと思われる。一番確実なのは、少しでも疑問があれば解剖し、資料を保存しておくということである。

3 法医中毒学の望ましい姿
 拠点大学に法医学研究所を設置し、その中に法医中毒学部門を置くというのが望ましい姿である。
 文科省管轄では、法人化や研修医制度の影響もあり、ほとんど不可能ではないか。文科省以外の管轄化で設置し、法医学教室に併設できれば最もよい。

第2 スウェーデンの死因究明制度の調査の概要

1.法医学庁

(1)組織・職員
 法医学庁は、長官の下、これを補佐する幹部と事務局のほか、現場部門を指導する理事会指導グループがストックホルムに所在 する。法医学庁の現場部門は、(1)法医学、(2)法精神医学、(3)法中 毒学・法遺伝学の3部門に分かれ、国内主要6都市に点在している。リンショーピン市所在庁では、全国で唯一の法中毒学部門を 有している。
 職員数は、383人で、男女比では女性244人、男性139人と女性 の比率が高い。その他に契約職員550人を有している。

(2)予算
 法医学庁の予算は、3億2,400万クローネ(SEK:1SEKは約18円) で、その内、政府補助金が2億4,600万SEKとなっている。内訳は、 法遺伝部門1,900万SEK、法中毒学部門6,500万SEK、法医学部門1 億1,400万SEK、法精神医学部門1億2,600万SEKとなっている。な お、法医学庁では、他の官庁等からの依頼による検査等の歳入分 を有するため、予算額と政府補助金額に上記のような差異が生じ ている。

(3)法中毒学部門
 法中毒学部門では、科学者・生物学者40人、研究室助手50人、 医師9人、教授3人、準教授4人が配置されており、法医学解剖 に関連する検査(5,100件)、飲酒や薬物の影響下での運転の疑 いに係る検査(14,300件)、警察からの依頼による薬物犯罪(30,0 00件)に係る検査、受刑者の薬物検査(38,000件)、ヘルスケア、 社会サービス、治療ホームにおける薬物濫用者の検査(5,200件) などを実施している。法医学庁では、生存者に対する上記諸検査 の数が増加している。
 検査における標準的な手続については、血液がほとんど場合に 使用され、アルコール検査が実施される。また、ほどんどのケー スで200種類の薬物のスクリーニングが行われる。さらに要請に 応じ違法薬物等の分析も行っている。
 法医学解剖からのサンプルでは、その70%にアルコール又は処 方薬若しくは違法薬物が検知されている。また、年間約500〜600 件の致命的な酩酊(アルコール、薬物濫用)事案があり、その半 分が自殺である。  
 なお、法中毒学部門は、調査に必要な知識や研究開発の拠点に もなっている。

(4)法医学部門
イ.スタッフと業務概略
 法医学部門の専門家グループは、法病理学者、解剖技師、法  医学死因調査官、研究室技師、秘書等で構成されており、年間  約5,500件の解剖を実施し、死因や死亡に至った経緯の究明を  行っている。なお、上記の解剖件数は、安定的に推移している。

ロ.法医学部門の特色   法医学検査(解剖)については、通常、病院等の機関で行わ  れているところ、スウェーデンでは、国が行政機関を設けて実  施するというユニークな制度を採用している。その背景には、  国が統一して法医学検査を実施することにより、同じレベルの  知識や技術、統一された政策を維持すべきであるという考え方  があった。法医学解剖には、客観性が重要であり、国の予算に  よることも大切である。

ハ.法医学検査
(イ)概略    スウェーデンでは、年間約9万件の死亡事案があり、不自然  死として解剖されるのは約5,500件となっている。解剖をせず  に後に犯罪による死亡であることが判明した事例は、年間10〜  12件で、警察が犯罪による死亡であることを発見できず、法医  学庁に解剖を依頼しなかったこと、死体発見現場が遠方であっ  たため法医学庁に遺体を運ぶことができなかったことなどが理  由である。自殺と思われる事案は年間1,100件となっている。   法医学検査は、警察や検察からの依頼により行うもので、法  医学庁には独自に調査する権限はない。    医師は、死体や医療日誌を見て死亡証明書を作成するところ、  死因が明らかでなく、犯罪が疑われる場合には警察に通報する。    警察から法医学庁に依頼があった場合、どのような方法で解  剖を行うかは法医学庁が決定している。検査医師は、法令上、  客観的な立場をとることとされている。
(ロ)検査の種類・内容   死体の検査には、身元確認、臨床解剖、外表検査、法医学解  剖、拡大法医学解剖がある。    身元確認は、歯形の検査、レントゲンなどによるものである。    臨床解剖は、法医学庁の別の部門からの依頼により行うもの  である。    外表検査のみを行うのは、例が少なく、国外で解剖された遺  体を検査するときになどに行う。外表検査については、将来的  にレントゲンによる検査が加わることが期待されている。    法医学解剖は、自殺や健常者の死亡の場合に行うもので、犯  罪の疑いが低いものを対象としている。例えば、事故死、自殺、  薬物等の濫用による死亡等の場合である。    他方、拡大法医学的解剖は、犯罪の疑いが高いものを対象に、  より詳細な検査を行っている。件数は、年間約200件で、その  内、公権力の行使による死亡事案は極希である。なお、刑務所  における死亡については、死亡を確認した医師が警察に通報し、  法医学庁に依頼することになる。拡大法医学解剖の場合には、  宗教上の理由や家族の意思は考慮されない(例えば、家族によ  る犯行という場合もある)。   死体発見現場での検査については、警察からの要請に基づき  実施している。    埋葬された遺体を掘り起こして法医学検査を行うのは非常に  希で、埋葬後にDNA鑑定が必要な事態となったときに実施し  ている。
(ハ)法医学解剖の時間    解剖の時間は、法医学解剖で約1時間、拡大法医学解剖では  約5〜6時間、案件によっては2日に及ぶこともある。
(ニ)記録   検査の記録書は各部門で同じ基準を採用している。

ニ.法医学部門の設備等
 法医学部門内には、遺族の待合室、遺体対面室、遺体保存室 (定数15体、平均4体、年間1,000体を保存)、一般解剖室、拡  大法医学解剖室等がある。拡大法医学解剖室では、2名の医師  と1名のアシスタントで解剖が行われ、警察が立ち会って、現  場写真などを見ながら協議するための設備等を有している。

ホ.問題点と課題
(イ)問題点   法医は、医師免許を有する者を採用した後、5年の研修・教  育を経て、法医としての資格を得るところ(ただし、法医学解  剖は、法医学庁でのみ実施できるとのこと)、現在、法医学部  門の医師不足が問題となっている。医学生は、一般的に生命を  救うのが医師の役割であると考えており、法医は死体の解剖を  任務とすることから志望者は少ないのが実情である。なお、法  医の給与は医師の中でも上位である。
(ロ)CTの導入    法医学解剖に関し、検査医師が使用できない技術があること  を国民が知っており、その技術を使用した調査を実施しなかっ  たことについて批判を受ける場合がある。今後は、新しいレン  トゲン技術の開発も検査(解剖)精度の向上策の一つであると  考えている。例えば、CTによる断層撮影などが難しい犯罪の  究明に有効であると考えられており、ビニール袋に入った着衣  の死体を機械に通すだけで断層図を容易に表示でき、解剖に代  えられる点もある。最近は裁判においても、見やすいという理  由で断層図が評価されており、また、警察に傷の大きさなどを  正確に知らせることができるのも断層図の利点である。    現在、法医学庁にはCTは設置されておらず、年間40件程度  を近隣病院において実施している。法医学庁にCTが設置され  た場合、将来的には約半分の事例で使用することになる。     なお、CTはシーメンス社のものを使用しているところ、数  百万SEKと高価であり、使用に当たっては高度な知識と技術を  必要とするほか、コンピューターに記録するデータも膨大にな  る。
(ハ)データベースの構築   法医学庁では、死因等の情報、アルコールや薬物の濫用歴な  どのデータを事例毎に記録するデータベースを構築し、さらに  開発を進めており、職員全員が使用できるデータベースを目指  している。ただし、アクセスできる情報は秘密法により職種で  異なる。

ヘ.その他
(イ)遺族に対するケア等    法医学庁では、遺族に対する精神的ケアは行っておらず、法  医学検査結果の説明は遺族が望めば行い、通常は記録の写しを  配付している。また、法医学検査に係るデータや文書は、情報  開示原則に従い、拒否する場合には理由を開示する必要がある。  なお、保険会社からの開示請求の場合も同様である。
(ハ)臨床医との協議    法医と臨床医との協議については、脳の細部に関し、神経病  理学医の知識が必要な場合に行っていたが、現在は、法医学庁  で神経病理学医を採用しており、それ以外での協議は行ってい  ない。

2.科学捜査研究所

(1)組織・職員・予算
 スウェーデンでは、警察は法務省の所管下にあるところ、科捜 研は、警察の一部を構成しつつも独立した機関であり、捜査当局 等に対し専門的な鑑識業務等を提供している。  組織は、長官の下、(1)生物学(DNA)、(2)文書・IT、(3)薬 物分析、(4)科学・技術の4部門で構成されている。なお、DNA 鑑定については、法医学庁で行っているもの以外の検査で、被疑 者と犯罪現場のDNA鑑定が中心である。
 職員は、290名で女性が3分の2を占め、その比率は幹部職員 も同様となっている。
 予算は年間3億2千万SEKとなっている。

(2)業務の特色
 2006年1月、刑事訴訟法等の改正によりDNAサンプルの採取 ・登録が行われるようにになり、DNA鑑定件数が飛躍的に増加 したことにより、2007年の科捜研全体の業務取扱件数は7万2千 件に達している。2007年の取扱件数の内訳は、司法当局からの依 頼によるものが71,086件、その他の依頼が480件、業務別では、 DNA関係が43,578件、薬物関係が21,337件などとなっている。
 イ.DNA鑑定   スウェーデンでは、1960年代から法廷において科学捜査の結  果が重視されているところ、最近はDNA鑑定が増加し、重要  な役割を果たしている。2006年1月から、警察は全ての犯罪に  ついてDNAサンプルを採取することができるようになったと  ころ、右鑑定により、それ以前に犯した重大犯罪が摘発される  場合もあり、例えば自転車窃盗で逮捕された者が過去に強姦を  していたという例などがある。   DNA鑑定は、犯罪の究明手段として徐々に発達し、国民か  らも認められるようになり、上記の立法に至った。   DNAサンプルの採取方法は、唾液と口内の細胞を取り出す  もので、血液は採取していない。サンプルは3か月で廃棄し、  記録だけを残している。サンプルの採取は、犯罪の疑いがある  時点で採取し、疑いがなくなればサンプル及び記録を廃棄する。  刑に処された場合には、10年間保存した後に廃棄する。なお、  欧州諸国内にも同様の法制を有する国がある。また、DNAデ  ータベースには、既決受刑者2万5千人、被疑者2万3千人、  犯行現場1万8千人が登録されている。
ロ.研修業務   科捜研では、警察や検察の捜査官や裁判官に対する研修を行  っている。   科捜研の研修施設では、犯行現場における最初の処置が重要  であるとの考え方の下、建物内に模擬住宅等を設置し、犯行現  場を再現できるようにしており、指紋、血液、足跡等を採取し、  科捜研の研究室や法医学庁に連絡するなど、実際の現場活動を  再現した研修を行っている。また、犯人役の行動を事前にビデ  オに撮影しておき、その後、犯人役の行動を特定していくとい  うような内容の研修もある。

第3 考察

 これらの調査・研究によって、わが国の死因究明の現状は非常に問題点が多いことが明らかになった。わが国の全死亡者(年間約108万人)に対する解剖率は先進国のなかでは最低の水準であり、検視、検案も専門家によるものが非常に少ない。また、監察医制度の実施地域が全国5都市に限られていることや実施地域間の解剖実施件数の格差等による変死体の解剖率に関する地方格差も歴然としている。他方、行政解剖を含めた解剖を行う法医学者の数や予算額が少ないこと等、解剖数を増やそうにも基盤そのものが極めて脆弱である。わが国の死因統計において「心不全」の割合が諸外国と比べて高くなっていることからも明らかなように、こうした要因により、保険金殺人の見逃し、相撲部屋での傷害致死事件やガス給湯器の欠陥による業務上過失致死事件などのように全ての犯罪死が的確に洗い出されていないばかりでなく、全死亡者に対する正しい死因確定がなされていないなど、死因究明制度の欠陥が顕在化し、国民の間からも改善の必要性が叫ばれている。そして、その改革の趣旨は、犯罪捜査目的だけでなく、国民の健康と安全・安心の確保、事故等の再発防止、民事上の権利の実現といった幅広いものでなければならない。また、こうした臨床現場をも含めた様々な分野に及ぶ改革は、私たち政治家が率先してリーダーシップを発揮し、その役割を果たさなければならない。
 そこで、我々は死因究明制度改革に関し、次のとおりいくつかの提言を行う。

 
 
死因究明制度改革に関する提言(案)
 
平成20年7月31日
 衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団
下 村 博 文
水 野 賢 一
細 川 律 夫
倉 田 雅 年
早 川 忠 孝
 

 わが国の死因究明制度改革は、最終的に、解剖に加え、画像検査、薬毒物検査等を併用しつつ、全死亡者に対して的確な死因の究明を実施する制度となるよう改革すべきである。
 しかしながら、その改革をすぐに実現させることは困難であることから、当面の目標として、5年後に法医解剖数で倍増(現行で司法解剖、行政解剖合計数約15,000を30,000に)させることとし、20年後には全死体数の8%(病理解剖も含む/この割合は現在の欧米先進国の最低水準としたもの/仮に死亡者数を年間100万人とした場合80,000)の解剖率を達成することとする。そのうえで下記のとおり具体的な方策を実行するように提言する。
 現行制度を前提に運用で改善可能な以下の部分について、早急に改善を求めたい。
1.刑事調査官の更なる増員、警察官の検視・見分に関する能力の  向上
2.CTなど画像検査の一層の活用
3.薬毒物検査の強化
4.法医学教室等に対する予算の確保と専門家の育成
5.監察医制度のより的確な運用と、監察医が置かれていない地域での行政解剖の積極的な実施
 以上、これらに関し来年度以降の予算においてメリハリの効いた措置を求める。
 しかし、上記改善策を講じるだけでは上記目標を達成することは不可能である。まずは法医学者だけでなく、臨床医なども含めた各界の関係者が参加して議論する審議会等の場を設け、制度の改善と基盤整備に向けた具体的かつ積極的な検討を開始するべきものと考える。その議論のなかで、下記の点を中心に現行の死因究明制度の改善策について、短期間のうちに一定の結論を得て制度改革に着手すべきである。
1.諸外国の死因究明制度の研究と、わが国の実状に合った画像検査、薬毒物検査、個体識別検査、解剖等の制度の検討
2.検案医、解剖医等の各種専門家を育成するための方策
3.具体的には、現在主に警察が担っている検証、検視等の制度と、公衆衛生を主目的とした監察医制度、司法解剖を行っている大学の法医学教室の改革
4.死因究明の結果判明した情報の遺族等に対する開示、及び、事故の再発防止や医学研究等のため、社会へ還元するための方策の検討
5.現在検討が進んでいる医療安全調査委員会等、医療関連死に係る死因究明制度との整合性

数値目標についての解説

5年後について
 現在、監察医制度が機能している4都県の法医解剖率(司法解 剖+行政解剖)が平均で約20%。現在の警察の取扱死体約15万体 の20%が約3万体。つまりこの目標値は、5年後に現在監察医が 置かれている都県並みの解剖率にするという趣旨である。

20年後について
 異状死の割合は各国で異なるため、ここでは分母を全死体に、 分子を病理解剖も含む全解剖数としている。WHOの統計によれ ば、欧米先進国は最低のドイツで全死体の8%を解剖している。 つまり、この目標値は20年で欧米先進国の最低水準に追いつくと いう趣旨である。年間死亡者数はこのところ110万人前後だが、 仮に20年後も同数とすれば目標となる解剖数は約9万体となる。

 
 
 
 
 
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