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裁判員制度に関する提言(案)
 
平成20年7月31日
衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団
下 村 博 文
水 野 賢 一
細 川 律 夫
倉 田 雅 年
早 川 忠 孝
 

 裁判員制度を円滑に実施するには、制度の柱である国民の負担や不安を最小限とするための運用上の配慮が、国民の視点に立ってなされることが不可欠である。

 そのため、最高裁判所に対し、下記の運用上の配慮を期待する。

○ 小合議体(裁判官1人・裁判員4人)の積極的活用
 裁判員が参加する合議体は、原則、裁判官3人、裁判員6人の構成であるが、被告人が公訴事実を認めている場合において、事件の内容等を考慮して裁判所が適当と認めるときは、裁判官1人、裁判員4人の小合議体で取り扱うことが制度上認められている。
 この点、年間約3000件の対象事件の約3分の2は、公訴事実に争いがない事件であると予想されているところ、裁判員制度に関する国民の負担を可能な限り軽減するため、これらの事件については、裁判所において、積極的に小合議体を活用する必要があると考える。

○ 事件ごとの裁判員候補者数の大幅削減
 裁判所は、事件ごとに6人の裁判員を選任するに当たり、多い場合、約100人の裁判員候補者を選定することを予定している。この点、確かに、裁判員候補者が具体的な辞退事由を有するか否かが基本的に明らかでない状況において、候補者の数を多くすることは、必要な数の裁判員を選任する観点からメリットが認められる。しかしながら、その一方で、裁判員候補者に選定されることにより、書類上から辞退が認められる場合を除いて選任手続のため裁判所に出向くなどの負担を伴うだけでなく、裁判員となることの心理的な不安感・負担感が具体化することが予想される。
 このような不安や負担を伴う国民の範囲を最小限とするため、運用に当たっては、裁判員候補者の出頭状況を見定めつつ、裁判員候補者の選定数を大幅に削減することも検討する必要があると考える。

○ 裁判員辞退の柔軟な認定
 裁判員辞退の申立てについても、諸外国では、柔軟に辞退を認める運用がなされていることや、諸外国との比較でも、我が国の裁判員の負担が軽いものではないことを踏まえ、裁判所において、辞退理由を具体的に斟酌した上で、その総合的判断において柔軟に対応することが必要であると考える。

 
 
「衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団」
裁判員制度に関する提言要旨(案)
 
平成20年7月31日
 衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団
下 村 博 文
水 野 賢 一
細 川 律 夫
倉 田 雅 年
早 川 忠 孝
 

 この度、衆議院韓国及び欧州各国司法・法務事情等調査議員団は、7月18日から7月26日までの日程で、韓国、イギリス、スウェーデン、フランスの各国を訪問した。その詳細については、別途報告するが、今回の訪問では、来年5月21日の裁判員制度実施を踏まえ、特に各国における国民の司法参加制度やその具体的な運用について重点的に学んだところである。

第1 調査状況の概要

1 韓国
 大法院(最高裁判所)、ソウル中央地裁、ソウル中央地検を順次訪ね、法院行政処次長、ソウル地裁所長、ソウル中央地検検事正らから、国民参与裁判について説明を聴取したところ、以下の事情が判明した。

・韓国では、日本の裁判員裁判に相当する国民参与裁判を本年1月1日から実施しているが、7月15日現在で国民参与裁判が実施され判決まで至った件数は合計26件(被告人数28名)しかないこと
・国民参与裁判は裁判官3名、陪審員7名を基本としつつ、法定刑が死刑・無期刑の場合には陪審員数は9名とされていること
・国民参与裁判を受けるか否かについて被告人に選択権が与えられており、一旦選択した場合にもその後一定の時期までは撤回することが認められていること
・国民参与裁判を選択する被告人は、およそ10%にすぎないこと
・被告人が国民参与裁判を選択した場合にも、審理に長期間を要する見込みであること等の事情があれば、裁判官が排除決定を行い、職業裁判官のみによる裁判とすることができること
・施行後6か月間で約80件の国民参与裁判の選択申請がなされたが、うち約半数については、裁判官による排除決定あるいは被告人による申請の撤回により、国民参与裁判の対象から除外されていること
・陪審員の評決に裁判官は拘束されないとされていること
・陪審員候補者として無作為抽出した一般市民のうち、約29.7%が陪審員選定期日に出頭していること。あらかじめ出頭困難である旨回答した者及び送達不能であった者等を除くと約59%の出席率であること。
・裁判官の中には、「国民参与裁判は一日で終わらせるのが適当であり、いきおい、そのような事件(多くは自白事件)以外については、排除決定を出さざるを得ない実情にある。」との意見があること
・6月末までに実施された国民参与裁判23件のうち、約65.2%に相当する15件が自白事件であること
・国民参与裁判は現在試行期間中と位置づけられており、この間、参加する国民の視点等から検証を加え、その結果を踏まえて必要な法改正を行い、5年後の2012年を目処に本格的に実施することとされていること
・国民参与裁判は、僅か1件を除き、陪審員の選任から判決まで、すべての手続を一日で終了していること
・6月末までに実施された国民参与裁判23件中、約73.8%に当たる17件について控訴がなされているところ、そのうち約半数が検察官による控訴(双方控訴を含む)であること

(小括)
 以上のとおり、韓国においては、国民参与裁判制度が導入されたものの被告人が選択しない、あるいは裁判所が不適切と判断するなどの事情により実際に実施されている裁判の数は少なく、参加する国民の数も少数にとどまっていることが判明した。また、陪審員の表決は裁判官に対する参考意見と位置づけられているため、その責任も重くはなく、審理期間は原則1日で陪審員の拘束期間も短いので、陪審員の負担は相対的に軽いように思われた。その上、現在、試行期間中であり、この間に実際に陪審員を体験した国民の声も参考にしながら、5年後をめどに本格的な実施を図ろうとしており、きわめて柔軟な実施状況となっていることも理解できた。

2 イギリス
 中央刑事裁判所(Central Criminal Court; 通称Old Bailey)を訪ね、上級判事マーチン・ステファンズからイギリスの陪審制度の実施状況の説明を受けた後、陪審員が隔離されて待機している場所、陪審員法廷を視察したところ、以下の事情が判明した。

・イギリスの陪審制度は裁判官1名、陪審員12名で実施されていること。
・陪審制度自体は、長い歴史を有し、国民の間でも当然の制度と受け止められていること
・裁判官の意識としても、例えば証言内容の信憑性についての判断等の事実認定については、1名ないし3名のプロの裁判官よりも、国民の判断に委ねられるべきであると考えられており、一方、法律判断や量刑判断については裁判官の領域であると考えられていること
・陪審裁判は、一定の重大犯罪について被告人が否認した場合にのみ行われていること。その場合でも、陪審裁判を受けることは国民の権利とされているため辞退を申し出ることは可能なこと。
・評議は原則として全員一致で決せられること
・審理の時間は、重大事件かつ否認事件に限られることから、どうしても長引く傾向にあり、殺人事件の公判を3日間で終えることはまずあり得ないこと。複雑な事件になると6ヶ月程度かかることもままあること。
・陪審員の質の確保については、英国でも重要問題であると認識されているが、一般的には、陪審員は、一旦選任されれば、概して真剣に取り組んでいること
・陪審員は選挙人名簿から事件ごとに無作為抽出されること
・その日に開始される法廷に陪審員候補者として呼び出された者(視察当日約100名)は、外部の者と接触できない隔離されたスペース(多数のソファー、デスクが設置された約300平米くらいのスペースであり、軽食・喫茶を提供する施設が設置されている。)にて待機させられること
・約100名の陪審員候補者を確保するために、約600通の呼び出し葉書を送付すること。この最初の呼び出し状は、4枚綴りになっていて、呼び出された者は、3枚目4枚目を返信し、その際、例えば延期してほしいとか免除してほしいという希望を伝えることになること。出席できるという返事を出した場合には、次に、裁判所から、どこの裁判所にいつ来てほしいという、具体的な内容を伴う詳細な呼び出し状が送られること。
・辞退が認められる者を除くと、約600通の呼び出し葉書を出せば、そのうち100人くらいが出頭可能見込者となり、彼らに再度の呼び出し状を送ると、その95%程度が実際に出頭すること
・約600通の呼び出し葉書に対して100名程度から出頭可能との返信を受けるが、その余の約500名について、呼び出しに応じない理由等を逐一問題にするような手続きは取っていないこと
・Old Bailey対応用の候補者として100名予定していたところが、150名出頭可能であると判明した場合には、余分の50名を他の裁判所の候補者に回すこともあること。
・法廷における陪審員選定手続は、12名の陪審員を決するため待機場所から16名が抽選で選ばれて法廷に呼ばれ、書記官がくじを引き、そのうち12名が選定されること。なお、視察時、法廷において、陪審員選任対象となった男性1名が、裁判官に対し、「本日午後に就職のための面接が入っている。」旨申したてたところ、その場で裁判官の判断により、陪審を免除され、他の者が選任され直した。

(小括)
 以上のとおり、イギリスにおいては、長い月日をかけて近代的陪審制度が段階的に発展してきたため、国民の意識としても当然のことと受け止められており、陪審制度の運用をめぐって国民生活に混乱が生じている様子は見受けられなかった。また、イギリスにおける陪審裁判は、一定の重大事件について被告人が否認している場合にのみ採用されることとされている上、陪審裁判を受けることは被告人の権利とされ、辞退できる場合がある。さらに、陪審員の選任方法について、陪審員候補者約100人を選任する際の呼び出し葉書送付数は約600人であり、候補者数との関係で呼び出しの母数は約6倍であり、それほど多くはない運用がなされていることが判明した。また、陪審員の書面上の辞退についても、辞退事由を仔細に詮索することなく、鷹揚な運用がなされ、法廷においても柔軟に辞退を認める運用がなされていることも判明した。

3 スウェーデン
 アットゥンダ(ストックホルム郊外)地方裁判所を訪問し、裁判所長、参審員協会会長(参審員)らからスウェーデンの参審制度と運用の実情について説明を受け、参審法廷の傍聴をするなどして調査したところ、以下の事情が判明した。

・スウェーデンでは、参審制度が採用されているが、出版表現の自由に関する罪については、例外的に陪審制度が採用されていること
・参審裁判は、基本的には裁判官1名参審員3名で行われること   参審員は審理中に意見を述べたり、質問したりしていないこと。他方、評議では、自由に意見を述べることができ、有罪・無罪の決定、量刑、弁護料や裁判料の支払義務など全ての議論に参加すること
・各地方裁判所ごとに参審員の数は決められており、市議会の獲得議席数に従って各政党に数が配分されること。アットゥンダ裁判所の場合、10都市、人口約38万5千人を管轄し、参審員の定数は180人であるところ、各政党別の数は、穏健党67、自由党22、キリスト教民主党14、中央党11(以上が与党連合)、社会民主党47、左翼党6、環境党4、その他国会に議席のない地方政党9となっていること。
・各政党は、参審員推薦委員会を有しており、そこで参審員を選定して市議会に推薦し、そこで承認(任命)されること。参審員推薦委員会は、年齢、教育、性別、民族的背景などが公平になるよう参審員を選定していること。
・スウェーデンでは、基本的には政党の選定(一般には、政党内部で活発に活動し名が知られている高齢者が選定される傾向がある)と本人の希望により参審員になっていること。一方で、参審員の選定は、あくまでも適性で判断されており、例えば、長年にわたり議会や委員会で勤務したことなどの基準で選ばれるものではないこと。
・政党員でない人が参審員になりたいという場合、政党に入って参審員推薦委員会から推薦を受ける以外に方法はないこと。
・参審員の再任率は、選挙の結果を受けた各政党への参審員定数の配分にも影響されるところ、前回の選挙では約40%の参審員が再任されたこと。1人が何回も参審員に選任されるのは普通で、20年以上、参審員として勤務している人もいること。
・スウェーデンにおいても最近は政党員になりたくないという傾向があり、社会の中には政党員でなくても参審員の適性を有した人がいることも確かだが、いまのシステムでないと、裁判所がどのように選ぶかという問題があり、政党が適性を判断して参審員を選定するという現行の制度を見直すような議論は皆無であること。  2006年、参審員の20%を政党以外の人から選ぼうとする法案が提出されたが、国会で否決された。
・現行の制度により参審員の資質は確保されており、参審員は政党推薦とはいえ、個別事件の判断においては、党派色は一切出さずに適切に対応しているのが一般であること。また、裁判長は、仮に不適切な人が選ばれた場合には罷免することができること。
・アトゥンダ裁判所の参審員の、平均年齢は60歳(全国平均56歳)で、20歳から82歳までとなっている。
・参審員は名誉職になっており、参審員に選ばれることは信任されたことを意味し、名誉的なことと考えられている。
・通常、参審員には1年間の予定表が配付され、年間10日間は義務として勤務しなければならないこと。身柄が拘束されている事件の場合などで迅速に裁判を進めなければならないときには、出勤できる参審員を事前に確認した上、参審員を確保していること。そのような緊急案件、長期の審理などの場合、要請に応えるためには一般的に退職した高齢者が参審員でいてもらったほうが都合がよいと考えられていること。
・参審員が守秘義務に違反した場合は、起訴され、罷免される。参審員が守秘義務違反を犯し、罰金刑に処され、裁判がやり直された事例もある。

(小括)
 以上のとおり、スウェーデンでは、参審制度が採用されているが、参審の選定は政党の推薦等により、一般国民からの無作為抽出ではないこと、参審員は名誉職と考えられており、参審員の負担日数として義務付けられるのも、年間で10日程度(月1回弱)である上、その1日当たりの所要時間は多くとも数時間程度、簡易な事件の場合には10分程度とのことであり、参審員としての負担も極めて少ない運用となっていることが判明した。

4 フランス
 ヴェルサイユ控訴院検事を招き、フランスの参審制度について説明を受けたほか、パリ大審裁判所を訪ね、同所事務総長及び予審判事からその運用実態について説明を受けたところ、以下の事情が判明した。

・フランスにおいては、「重罪」について、参審制度が採られており、第一審は、裁判官3名と参審員9名、第二審は、裁判官3名と参審員12名で合議体が組まれること
・参審員は、その候補者がセッション(裁判開廷期)ごとに選定される。セッションは、通常は、2週間であり、その中で、2ないし3の事件が審理されること
・セッションごとに、参審員候補者として約30名を選定する必要があり、そのために約50名程度を選挙人名簿からくじで選び、その元に召喚状を送付すること。約50人を呼び出せば約30名は出頭するのが通例であること。
・セッションの初日に、召喚された者は、重罪院に出頭すること。それまでの期間に、身体的事情、職業上の事情により、参審員候補者を辞退することを欲する者は、主に書面で重罪院の書記官に申し出て、医師の診断書等から、参審員となることが明らかに不可能と裁判長が認める者について、出頭が免除されること。
・セッション内に開廷される事件ごとに約30名の参審員を母数として抽選が行われ、裁判ごとの実際の参審員が決定されること。ひとつの事件に選ばれた者も別の事件の抽選の際には除外されないので、2〜3の事件のすべてに選ばれてしまう参審員も出るし、逆に、ひとつの事件も担当しない参審員も出ることがあること。
・無断の不出頭の場合は、最高3、750ユーロの罰金という制裁が科されるが、実際に科されるのは極めてまれと思われ、具体例は見当たらないこと
・セッション初日に、出頭者から参審員候補者を確定させるが、この場で、辞退を望む者は、個別の理由を述べて、裁判長に申し出ることになること。その際は、身体的理由や、職業上の理由が客観的に証明されなければならないこと。
・辞退が認められる職業上の理由については、これがそれに該当するということを類型的に述べることは困難であるが、要するに、裁判長が相当と認めるものであり、裁判長の裁量が大きいと思われること
・一方で、辞退理由の幅は可能な限り小さくするという運用がなされており、例えば、医師が、学会のためその期間海外に出張するというケースなどは、セッションの一部(すなわち一または複数の事件)に限ってのみ、参審員候補者となるという運用がなされていること
・学校教育の場でも、「市民教育」すなわちフランス国民としての権利・義務を教える機会の際に、市民の義務(納税の義務、教育を受けさせる義務等)の一つに裁判に参加する義務があることが教えられること
・それとともに、セッションの第一日目に、裁判長、そして検察官及び弁護士が、確定した参審員候補者に対して、フランスの刑事事件手続き、その中での重罪裁判の位置づけ、ひいては、裁判に参加する国民の義務について、詳しく説明すること。重罪院の裁判長や検察官は、経験豊かな司法官であるので、市民に対する説明にも非常に熟達していること。
・重罪裁判にこのように参加するという義務については、確かに一定期間、仕事からの離脱をも伴うものであり、厳しいものと言えるが、仏では、参審員制度は広く定着しており、市民参加を取りやめるとか、軽減するという議論はないこと。

(小括)
 以上のとおり、フランスでは、重罪院において参審制が採られているが、重罪院は、年に複数回、通常2週間程度の一定期間を定めて開廷され、参審員は、この開廷期ごとに選任される。したがって、参審員の拘束期間は最大2週間程度であり、しかも、この期間内に開かれる2〜3の裁判のうちいくつかに参加する場合があるにすぎないことが判明した(中には一度も裁判に参加しない者もいるとのこと)。また、参審員の選任手続に関し、開廷期ごとに実際に参審員を担当する候補者約30人を選任する際の呼び出し対象者は約50名程度であり、イギリス以上に候補者数との関係で呼び出し対象者の母数を少なくする運用がなされていることが判明した。

第2 考察

 裁判員制度は、内閣に設置された司法制度改革審議会が、2年間に及ぶ審議の結果、その導入を提案し、自民党司法制度調査会裁判員小委員会(長勢甚遠委員長)、民主党法務部門会議等による国民的議論を尽くした末に、関係法案が国会に提出され、全会一致で可決成立したことにより、来年5月から施行されることになったものである。
 裁判員制度は、司法に対する国民の信頼をより一層向上させ、国民に支えられた司法を構築する観点から、極めて重要な意義を持つものであるから、これを着実にわが国に定着させていく必要があり、諸外国の例にもあるとおり、国民の意識としても当然のことと受け止められるよう国民負担にも留意しながらその導入を着実に図っていく必要がある。

 一方で、最近の最高裁判所による意識調査によれば、裁判員制度に対する国民の認知度は9割を超えているとともに、約6割の国民が参加するとの意向を示しており、裁判員制度の実施に支障はない状況にあるとは思われるものの、積極的に裁判員制度に参加したい、あるいは参加してもよいと考える国民層は未だ2割に満たない現状にある。裁判員制度は、司法に対する国民参加制度として新たに導入されるものであるだけに、政府等による懸命な広報活動にもかかわらず、国民の積極的な参加意欲の面では未だ課題があるといわざるを得ず、我が国の国民の多くが依然として裁判員制度に対し不安感・負担感を有しているという現状は直視しなければならない。
 来年5月の裁判員制度の施行を控え、今、我々が考えなければならないことは、国民生活に大きな混乱を起こさずに円滑に本制度を導入していくことであり、そのためには、まずは、裁判員制度に協力をお願いする国民の範囲を極力少なくするなどの運用上の工夫を検討するなどして、総体としての国民の負担を軽減していくことが必要である。
 現行裁判員法を見ると、裁判員裁判の合議体は原則として裁判官3名裁判員6名とされているが、公訴事実に争いがなく、当事者に異議がなければ裁判官の判断により、裁判官1名裁判員4名の合議体(小合議体)でも審理することができるとされており、裁判員対象事件の大半が事実関係に争いがない事件と見込まれることからすれば、この小合議体を積極的に活用することにより、協力をお願いすべき国民の数を相当程度減らすことができるものと思われる。
 裁判所は、過去数年間の事件数から想定される翌年の事件数に1事件あたり約100人を乗じた人数規模の裁判員候補者名簿を調製し、毎年11月から12月ころ、裁判員候補者名簿に記載された裁判員候補者に対し、その旨を通知すると聞いている。名簿記載通知の時点では、裁判員候補者は、裁判所に出頭する必要はなく、具体的な負担が生じるものではないとはいえ、裁判員になる可能性があるということで心理的な不安感・負担感が生じ得ることは否めないから、裁判所としては、裁判員候補者名簿の記載者の人数が過大にならないよう、名簿規模を適正に定めるよう十分に留意すべきである。 また、裁判所は、事件ごとに裁判員6名を選ぶために、50名から100名程度の裁判員候補者を選定して選任手続期日のお知らせを発出する予定と聞いている。最終的に選任される裁判員の数に比して多数の裁判員候補者を選定するのは、期日に先立って、辞退を認める運用を柔軟に行うことにより、事前に人数を絞り込むためであるとされているが、この割合についても、裁判員候補者の出頭状況を見定めつつ、期日のお知らせを出す範囲を狭めることも検討する必要があるように思われる。
 更には、裁判員候補者の個別の事情をきめ細かく聞き取り、辞退事由を弾力的に運用することなどにより、本制度に参加する国民の幅広い理解と支持を得ていく必要がある。
 なお、裁判員日当のあり方についても、裁判員の負担や国民意識にも留意しつつ不断の検討を加え、適正な額が維持されるよう努めることを期待する。
 当調査議員団は、今回訪問した諸外国においても、司法に参加する国民の立場に立った柔軟な運用がなされている実態を見聞し、以上のような考察を経た結果、我が国の裁判員制度に対し、別添の提言を行う。

 
 
 
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